【地域資源・国際経験・共創】えひめ国際農業共創フォーラム2026 -Ehime International Agricultural Co-Creation Forum 2026-
愛媛県国際農業者交流協議会Share
NF EHIME EVENT REPORT
【地域資源・国際経験・共創】
えひめ国際農業共創フォーラム2026
Ehime International Agricultural Co-Creation Forum 2026
地域に受け継がれてきた資源と、海外農業研修を通じて得た視点を結び、愛媛の農業を次世代へどうつなぐのか。養蚕、農業経営、人材育成、国際交流を横断しながら、参加者がそれぞれの立場から未来を考える公開フォーラムを開催しました。
13:30〜16:15
E:N BASE 1階 EN STAGE
E:N BASE入口に設置された手書きの案内ボード。「愛媛の農業を次世代へ」という開催趣旨を来場者へ伝えました。会員組織の行事から、地域に開かれた対話の場へ
本フォーラムは、愛媛県国際農業者交流協議会が取り組む海外農業研修制度の普及、帰国研修生のネットワーク形成、次世代農業人材の育成を、より広く地域社会と共有するために企画したものです。
田村隆悟会長の主催者挨拶に続き、愛媛県農林水産部農政企画局農地・担い手対策室から来賓挨拶をいただきました。海外への農業研修だけでなく、愛媛県内における海外研修生の受け入れや、国際的な人材交流を地域農業の未来へつなぐ重要性が示されました。
会場となったE:N BASEは、行政、企業、教育機関、地域団体、個人が立場を越えて地域課題に向き合う官民共創拠点です。今回の開催そのものが、NF愛媛にとって「組織の内側で完結する活動」から「地域と共に未来を考える活動」へ踏み出す実践となりました。
English Summary — Forum Overview
基調講演:養蚕を通じて「文化を耕す」
基調講演には、西予市野村町を拠点に養蚕と愛媛シルク文化の継承に取り組む、愛媛シルク工房代表・松山紀彦氏を迎えました。演題は「地域から世界へ―野村町発の養蚕経営と愛媛シルク文化の未来」です。
松山氏は、仕事の転機を経て55歳で養蚕の世界に入り、10年間にわたり桑畑の整備、蚕の飼育、繭の生産、桑の葉茶の商品化などに取り組んできました。養蚕だけで生計を立てることが難しい現実と向き合いながらも、「消えつつある産業を残したい」という使命感を持って継続してきた歩みが語られました。
松山氏の経歴と、2016年に始まった養蚕への歩み。
基調講演の本論「文化と共創を考える」。
失敗を重ねながらも続けてきた、養蚕10年間の実践。英語の culture が「耕す」を語源に持ち、農業が agriculture、養蚕が sericulture と呼ばれることから、農業そのものが文化をつくる営みであると松山氏は説明しました。そして、継承とは先人の方法をそのままコピーすることではなく、根底にある思想や誇りを理解し、時代に合わせて再構成することだと語りました。
養蚕の営みから、「文化とは耕すこと」という意味を捉え直しました。
継承は単なる模倣ではなく、地域に根ざした誇りと思想を伝えること。土地、技術、歴史、人々の営みを、地域固有の価値として見つめ直すための土壌。
外から地域を見ることで、当たり前の中にある価値を発見し、別の言葉で伝え直す視点。
異なる世代や専門性を縦糸と横糸のように組み合わせ、未来の文化を織り上げる行為。
地域資源は、人の手で耕され文化へ変わる「未来の種子」。
国際経験は、地域の当たり前を世界へ通じる価値に翻訳する視点。
地域資源を縦糸、国際経験を横糸として、未来を織り上げる「共創」。養蚕の未来を考える上では、技術の保存だけでなく、継続可能な経営基盤が欠かせません。松山氏が取り組む桑の葉茶は、蚕の餌として育てた桑を新たな商品へ転換し、「身にまとうシルク」と「体の内側から健康を支える桑」という二つの価値をつなぐ試みです。地域資源を守ることと、事業として続けることを分離しない姿勢が示されました。
English Summary — Keynote Speech
海外農業研修ミニトーク:外へ出ることで、足元が見える
田村隆悟会長が、自身の米国農業研修と現在の海外研修生受け入れについて語りました。続くミニトークでは、田村隆悟会長が自身の米国農業研修を振り返り、海外農業研修の価値を語りました。田村会長はオレゴン州の牧場で2年間研修し、農業技術そのもの以上に、仕事への誇り、仕事も生活も全力で楽しむ姿勢、人と共に生きることを学んだといいます。
海外から日本を見ることで、水、緑、土、草木に恵まれた日本の農業環境が決して当たり前ではないことに気づいたこと。そして、地域を離れた経験があるからこそ、自分の地域に適した農業や、自分自身が目指す暮らしを考えられるようになったことが紹介されました。
また、自らが海外で受け入れてもらった経験への恩返しとして、現在はフィリピンからの農業研修生を受け入れています。当日は研修生のジェフさんも会場で紹介され、海外へ学びに行く流れと、海外から学びに来る人を迎える流れの両方が、地域の国際交流を形づくっていることが伝えられました。
- ✓インターネットで情報を得ることと、現地で生活し働くことは同じではない。
- ✓海外経験は、外国の方法をそのまま持ち帰るためではなく、自分の地域を見直すための物差しになる。
- ✓他者や大規模農業と比較するのではなく、自分の地域、自分の経営、自分の人生に合う目標を定めることが重要である。
- ✓研修生を送り出すことと受け入れることを循環させ、長期的な国際的人材ネットワークを育てる。
English Summary — Overseas Agricultural Training
参加型ワークショップ:継承を「負担」から「未来の素材」へ
参加者が円形に集まり、講演で得た気づきと地域農業の未来について意見を交わしました。後半のワークショップでは、農業者、海外農業研修OB・OG、学生、行政関係者らが円形に集まり、講演から受け取ったことを共有しました。人数の多さではなく、一人ひとりの経験を持ち寄り、互いの言葉に反応しながら考えを深める対話の時間となりました。
日々の農作業は作物だけでなく、風景、暮らし、地域の価値観をつくっているという再認識が共有されました。
海外や県外を経験した参加者から、地域を離れることで初めて足元の価値に気づいたという声が上がりました。
従来の方法を守るだけでは「負の遺産」と受け止められる可能性があります。新しい技術、商品、表現、担い手を組み合わせることが必要です。
地域を守る無償の作業にも意味がありますが、生活できる経営をつくらなければ継続はできないという現実も確認されました。
愛媛シルクの歴史、手仕事、希少性を商品と切り離さずに伝えることで、海外市場や国際交流につながる可能性が議論されました。
会場ではAIとの対話を実験的に行い、海外の伝統産業にみられる物語化、観光・体験との接続、現代デザインとの協働という視点を共有しました。
特に印象的だったのは、「向こう側から見れば、愛媛もまた世界である」という視点です。地域から海外へ一方的に発信するのではなく、各地で土地を耕し続ける人々が、対等な立場で互いに影響し合う。その循環こそが、新しい農業文化を生み出す共創であるという考えが、参加者の対話を通じて具体化されました。
会場に展示された養蚕資料と地域商品
会場には、繭、糸、養蚕道具、桑茶などが展示され、講演で語られた地域資源と商品化の歩みを、実物を通して確かめることができました。
繭、蔟、糸取り道具など、養蚕の工程と手仕事を伝える展示。
養蚕農家が桑の葉を活用してつくる「絹茶」。継承と経営を結ぶ商品化の一例です。
繭玉、生糸、シルク活用資料。素材の特性と新しい用途を紹介しました。
地域の歴史と品質を象徴する「伊予生糸」の展示。English Summary — Participatory Workshop
フォーラム終了後の記念撮影。地域資源、国際経験、共創を次の活動へつなげていきます。この日生まれたのは、完成した答えではなく「次の問い」
愛媛シルクをどのように持続可能な産業へ転換するのか。海外農業研修の経験を、次世代へどう伝えるのか。若者、農業者、行政、教育機関、企業が、どのような横糸を持ち寄れるのか。
フォーラムの終わりには、文化を過去形の名詞として見るのではなく、現在進行形の動詞として捉える言葉が共有されました。私たちは文化を受け取るだけでなく、今日も「文化している」。その自覚を持ち、地域資源と国際経験を結びながら、次の世代が参加できる仕組みへ変えていくことが、NF愛媛のこれからの課題です。
地域から世界へ。それは一方向の移動ではありません。それぞれの土地を耕し続ける人々が出会い、互いの価値を見つけ、未来を共に織り上げる循環です。
English Summary — What Comes Next
※本記事は、当日の基調講演、海外農業研修ミニトーク、参加型ワークショップの記録をもとに、発言の趣旨を損なわない範囲で編集・再構成しています。
愛媛県国際農業者交流協議会
愛媛県国際農業者交流協議会は(公社)国際農業者交流協会が主催する米国、欧州、オーストラリアにおける農業研修制度に参加した愛媛県内在住のOB・OGによって運営されています。